VERI's EYE

「Noと言えるベトナム」への変貌 ―日米重視から中・ロを含めた全方位外交へ―

ある記者から連絡があった。「最近のベトナムは様子が変わってきたように思います。どうやら中国寄りになってきているように見えるのですが、どう思われますか」。日本ではあまり注目されていないが、フック首相になってからベトナムの外交姿勢が大きく変化してきているのは事実である。それを表すキーワードが「全方位外交」と「現実路線」である。

 「全方位外交」は、そもそも1986年に採択したドイモイ(刷新)政策の4つの基本路線のうちの1つであった。しかし、その後の経済援助が自由主義国中心であったことや、市場経済の導入に積極的であったことで偏りが生じていた。近年では中国やロシアと言った大国の存在感が増す中で、ベトナムの外交戦略も日米依存からの脱却を図っているように見受けられる。全方位外交という、ベトナムが求めていた姿に立ち返ったとも言えるだろう。

 全方位外交の中でも、特にここにきて中国への歩み寄りが注目される。これまでベトナムは、共産党が中国や北朝鮮などの社会主義国と、一方で政府が日本や米国など自由主義経済国と交渉することでバランスをとってきた。ところが、日本ではあまり報道されていないが、昨年913日、政府の代表であるフック首相が中国を公式訪問している。儀礼兵が出迎え、中国側に大歓迎される中、フック首相は習近平 国家主席をはじめ序列14位までの指導部と協議を行った。フック首相は、帰国後に国内でも大きな評価を受け、今後は政府が社会主義国とも直接関わることを内外に示したのである。

前任のズン首相は、1人ですべてを牛耳る強力な指導者であり、米国を向き資本主義国のような国づくりを行った。しかし、それに対する批判も大きく、フック首相になってからは合意で政治を動かす集団指導体制への転換を図っている。これからは米国一辺倒ではなく全方位外交を促進し、東アジア地域包括的経済連携(RCEP:アールセップ、ASEAN10カ国に日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16カ国が参加)などあらゆる対外的な提携を含むグル―バル化を推し進める方針である。

もう1つのポイントが「現実路線」である。

これまでベトナムは国づくりへの貢献から日本への信頼と評価が高く、日本からの申し出に「No」と言ったことはなかった。そのベトナムが、TPPへの不参加を表明し、日本からの原発導入を白紙撤回すると言い出した。日本からのODAなどの公的債務は長期債務となりデフォルトにつながる恐れがあることから、短期債務や民間投資に切り替えたいというのがベトナムの意向である。

この30年間でベトナムは軍事・政治・経済面で国力をつけた。若い世代の台頭で日本の貢献が忘れ去られ、より早く実績を上げてくれる国のほうが良いと、日本以外の選択肢が浮上している。ベトナムにとって日本はもはや羨望の国でなく、多くの国の中の1国であり、絶対的な存在感もなくなりつつある。ベトナムの地政学的な優位性も相まって、今やベトナムは多くの国から求められる存在となった。現実的に見て自国にそぐわないことには「No」と言える国になったことを知っておくべきである。

 ベトナムは社会主義国としての本来の姿を取り戻しつつある。経済発展に伴い、市場経済にばかり目が行きがちであるが、ベトナムが社会主義国であるということを決して忘れてはならない。市場経済の導入は、あくまで社会主義の実現のための過渡期の現象に過ぎないとベトナム共産党の綱領に明記されている。ベトナムは、ドイモイ政策の4つの基本路線(全方位外交、付加価値のある産業への転換、市場経済の導入、時間をかけての社会主義体制の構築)に沿って、再び動き出したのである。                         (文責・窪田 光純)